第4 遺言の方式
遺言は、法律の定める方式に従ってしなければなりません(民法第967条ないし第975条、特別方式については第976条ないし第984条)。方式に従わない場合は、遺言としての効力が認められません。遺言の方式が厳格なのは、遺言者に慎重に考慮をさせ、遺言の内容を明確にし、遺言の偽造や変造を防止し、遺言者の真意を確保しようとするためです。
なお、遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることはできません(民法第975条)。仲の良い夫婦でも、別々の用紙、封書で遺言しなければなりません。
なお、遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることはできません(民法第975条)。仲の良い夫婦でも、別々の用紙、封書で遺言しなければなりません。
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普通方式
(1) 自筆証書遺言(民法第968条)
自筆証書遺言は、遺言者が全文と日付を自分で書き、署名、押印することにより成立します。文字の書ける人なら誰でも手軽に作成でき、費用もかからず、作成したことを秘密にできるなどの長所があります。しかし、方式の不備で無効とされたり、内容が明確でなくて執行が困難となったり、あるいは紛争となったり、偽造、変造されたり、紛失、滅失したりする危険性があります。
自筆証書遺言の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、検認の請求をしなければなりません(民法第1004条)。
自筆証書遺言についての方式、要件、注意すべき点は、書式のところで解説することとします。
(2) 公正証書遺言(民法第969条)
公正証書遺言は、次の方式により作成されます。
(イ) 証人2人以上の立会があること (ロ) 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること(遺言者が口がきけない場合、口授の代わりに、通訳人の通訳により申述するか、自書(筆談)すること) (ハ) 公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ又は閲覧させること(遺言者又は証人が耳が聞えない場合は、読み聞かせに代えて、筆記内容を通訳人の通訳により伝えること) (ニ) 遺言者及び証人が筆記の正確なことを承認した後、各自署名,押印すること(遺言者が病気などのため署名できないときは、公証人がその旨を付記して、代って署名すること) (ホ) 公証人がその証書が方式に従って作成されたものである旨を付記して、署名、押印すること
公正証書遺言は、方式が厳格であること、証人2人以上の立会が必要なこと、費用がかかることの短所があります。しかし、法務大臣により任命された法律の専門家である公証人が関与し、遺言の趣旨が正確に遺言書として作成され、後日紛争が生ずることがほとんどないこと、文字が書けなくても作成可能なこと、原本は公証人が保管するため紛失や改ざんのおそれがないこと、相続開始後、家庭裁判所での検認手続が不要で、速やかに執行に着手できること、等の長所があります。
次の者は、証人となることができません(民法第974条)。(イ) 未成年者 (ロ) 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族 (ハ) 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
遺言者が病気のときは、公証人に自宅又は病院に出張してもらうこともできます。公証人には守秘義務があり(公証人法第4条)、また、信頼のできる人を証人に頼めば、秘密が漏れる心配はありません。
(3) 秘密証書遺言(民法第970条)
秘密証書遺言は、次の方式により作成されます。
(イ) 遺言者が遺言書に署名、押印すること (ロ) 遺言者が遺言書に封をして遺言書に押した印章で封印をすること (ハ) 遺言者が公証人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること (ニ) 公証人がその証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載し、遺言者及び証人とともに署名、押印すること
口がきけない者が秘密証書遺言をする場合には、遺言者は通訳人の通訳により申述し、又は封書に自書して、(ハ)の申述に代えることができ、公証人はその旨を封紙に記載します(民法第972条)。
秘密証書遺言の本文、日付、住所は、遺言者の自書でなくてもよいので、自分でワ-プロ、パソコンで打ってもよく、他人に書いてもらったり、ワ-プロ、パソコンを打ってもらうこともできます。しかし、署名は必ず遺言者自身がしなければなりません。また、他人に書いてもらったり、ワ-プロ、パソコンを打ってもらった場合は、必ず筆者の住所、氏名を申述しなければなりません。
公証人は遺言の内容を知ることはできませんから、証人に不適格者(民法第974条)がいるかどうかはチェックできませんので、遺言者自身が注意しなければなりません。
秘密証書遺言は、遺言の内容を秘密にできるメリットはありますが、公証人が保管するものではないことに留意する必要があります。
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特別方式
⑴ 死亡危急者遺言(一般危急時遺言、一般臨終遺言)(民法第976条)
疾病その他の事由(老衰、負傷等)によって、死亡の危急に迫った者は、証人3人以上の立会のもとで、証人の1人に遺言の趣旨を口授し、口授を受けた者がこれを筆記し、遺言者及び証人に読み聞かせ又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認して、署名、押印することにより、遺言をすることができます。この遺言は、遺言の日から20日以内に証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求して確認を得なければ、その効力がありません。
⑵ 船舶遭難者遺言(難船危急時遺言、難船臨終遺言)(民法第979条)
船舶遭難の際に、在船者で死亡の危急に迫っている者は、証人2人以上の立会のもとで、遺言者が口頭で遺言をし、証人がその趣旨を筆記し、署名、押印することにより、遺言をすることができます。読み聞かせは必要ありません。この遺言は、証人の一人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求して確認を得なければ、効力がありません。
⑶ 伝染病隔離遺言(一般隔絶地遺言)(民法第977条)
伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官1人及び証人1人以上の立会のもとで、遺言書を作成することができます。遺言書は遺言者の自筆でなくてもよく、これに遺言者、筆者、警察官、証人が各自署名、押印します。伝染病のためと規定されていますが、刑務所内に在る者、災害等で事実上交通を断たれた場所にいる者も含まれると解されています。
⑷ 在船者遺言(船舶隔絶地遺言)(民法第978条)
船舶中にある者は、船長又は事務員1人及び証人2人以上の立会のもとで、遺言書を作成することができます。遺言書は遺言者の自筆でなくてもよく、これに遺言者、筆者、立会の船長又は事務員、証人が署名、押印します。
⑴及び⑵は、死亡の危急に迫った者が遺言をする場合に、⑶及び⑷は、隔離された者が遺言をする場合に、特別に認められた方式です。これらの特別方式で作成された遺言は、遺言者が普通方式によって遺言することができるようになった時から6カ月間生存するときは、遺言としての効力がなくなります(民法第983条)。