(3) 遺言の方式
遺言は、民法に定める方式に従って行う必要があります。遺言の方式には、普通方式と特別方式があります。
普通方式の遺言として、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があり、特別方式の遺言は、死亡が危急に迫っている場合や一般社会と隔絶した場所にあるため、普通方式による遺言ができない場合に限り認められるものです。
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(イ)自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに押印することによって成立します。用字、用語は略字、略語でも外国語でも構いません。(a)自書
自筆証書遺言は、その名のとおり、遺言者自らが書かなければなりません。
他人に代書させたり遺言者の口述した内容を他人が筆記したものは、その内容の正確性いかんに関わらず無効ですし、タイプライターやワープロで打ったりテープに吹き込んだものも無効です。
自書と言えるためには、遺言者が自書能力、すなわち文字を知りかつ筆記する能力を有している必要があります。
遺言者が他人の補助 (添え手) を受けて書いた遺言書についても、原則として無効となります。
ただし、遺言者が自書能力を有し、他人の添え手が、始筆若しくは改行にあたり若しくは字配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に置くにとどまるか、遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされて単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり、かつ、添え手をした他人の意思が運筆に介入した形跡がないことが筆跡のうえで判定できる場合には、自書の要件を満たすものとして、例外的に有効であるとした判例があります(最高裁判所昭和62年10月8日判決)。(b)全文の自書
全文とは、遺言者の実質的内容である遺言事項を書き記した部分で、いいかえれば本文のことです。全文を他人が書いた場合は無効です。
一部を自書し、他人が他の部分を書いた場合の遺言の効力については争いがありますが、他人によって書かれた部分が付随的意味をもつにとどまり、その部分を除いても遺言の趣旨が十分表現されているときは、遺言全体を無効とする必要はないとする考え方が有力です。
自筆の遺言書に、司法書士のタイプで記載した不動産目録が添付され、不動産の帰属すべき氏名が記載されている事案につき、東京高等裁判所昭和59年3月22日判決は、不動産目録は遺言書中の最も重要な部分を構成し、それが遺言者の自書によらない以上、無効であると判示しています。(c)日付の自書
遺言者は、遺言書作成の日付を自書しなければなりません。
日付の記載が要求されるのは、遺言者が遺言作成時に遺言能力を有していたか否かを判断するためと、二つ以上の遺言がある場合にその先後を決定するためです。
日付は、年月日が特定されるものであれば、記載方法に制限はありません。西暦でも年号でも構いませんが、「吉日」 のような表現では、日の特定ができないため、無効となります。
日付の記載はあるものの、真実の遺言作成日と一致していない場合は、原則として無効と考えられています。
ただし、昭和48年に死亡した遺言者が、日付の年号を 「昭和28年」 と記載した事案につき、日付記載が誤記であること及び真実の作成日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には、その誤記は遺言を無効にするものではないと述べた判例があります(最高裁判所昭和52年11月21日判決)。
日付記載の場所について特に制限はありませんが、日付が遺言書を封入した封筒に記載されている場合のように、日付が本文と同一の書面になされていない場合には、封筒と遺言書とが一体性を有するか否かがポイントになります。
福岡高等裁判所昭和27年2月27日判決は、日付は必ずしも遺言書の本文に自書する必要はなく、遺言者が遺言の全文及び氏名を自書し印を押し、これを封筒に入れて、その印章をもって封印し、封筒に日付を自書したような場合は、日付の自書ありと解してよいと判示しています。(d)氏名の自書
氏名は、戸籍上の氏名と同一である必要はなく、通称、雅号、ペンネーム、芸名などであっても遺言者と特定できるのであれば有効です。
また、氏と名ともに記載されるのが通常ですが、どちらかだけでも遺言者を特定できる場合には有効です。(e)押印
押印のない遺言書は無効です。ただし押印は実印による必要はなく、認印でも構いませんし、指印も有効と考えられています (最判平元2.16)。
遺言書が複数枚に渡る場合、割印があることが望ましいですが、法律上の要件ではないため、割印がなくても遺言は無効にはなりません。
押印は遺言者本人によってなされるのが原則ですが、他人が遺言者の依頼により、その面前で押印した場合は有効と考えられます。(f)加除その他の変更
遺言書に加除その他の変更を加えたときは、遺言者がその場所を指示し、変更した旨を付記してこれに署名し、さらにその変更の場所に押印しなければなりません。
ところが、一般に証書作成手続における加除変更の方式は、変更された場所に押印し、証書の欄外に訂正した旨を付記して押印して行われることがあります。
遺言の訂正の方式は、通常の加除変更方式に比べて厳格な方式を要求していることになりますが、判例のなかには、加除、変更の方式に従っていない遺言書であっても、これを有効とするものがみられ、要式緩和の一つの現れといえます (最判昭56.12.18、大阪高判昭44.11.17等)。(g)自筆証書遺言のメリット・デメリット
自筆証書遺言は、文字の書ける人であれば誰でも作成でき、費用もかからず、しかも作成の事実を誰にも知られないなどのメリットがあります。
しかし、方式不備で無効とされる可能性が高く、その内容の真意が争われる可能性も高いといえます。
また、遺言書が公証役場に保存されるわけではないため、偽造、変造、紛失、滅失のおそれがあるという大きなデメリットがあります。 -
(ロ)公正証書遺言
公正証書による遺言は、証人二名以上の立会いがあること、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること、公証人がその遺言者が口述した内容を筆記して遺言者及び証人に読み聞かせること、遺言者及び証人が筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名、押印すること、公証人が適式な手続に従って作成されたものである旨を付記して証書に署名、押印することによって作成します。(a)証人の立会
2名以上の証人の立会が必要であり、証人は遺言の作成手続の最初から最後まで立ち会っている必要があります。ただし、以下の者は、証人とはなることができません。イ.未成年者
未成年者は法定代理人の許可があっても証人や立会人となることができません。但し、婚姻によって成年とみなされる場合は証人となれます。ロ.推定相続人・受遺者及びその配偶者並びに直系血族
これらの者は遺言に強い利害関係を持つことから欠格者とされています。
特定の被相続人の遺言との関係での欠格者であり、絶対的欠格者である未成年者に対し、相対的欠格者と呼ばれます。ハ.公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び雇人
遺言と直接の利害関係を持ちませんが、遺言の秘密を知る機会を持ち、かつ公証人の親族上又は職務上の影響の範囲内にあることから、欠格者とされています。(b)遺言の趣旨の口授
遺言者は遺言の趣旨を公証人に口授しなければなりません。
遺言の趣旨とは、遺言の内容の一字一句でなく、遺言の概要のことをいいます。
口授とは、口頭で述べることをいい、手話や身ぶりまた、発問に対してうなずく行為などは口授にあたりません。
口授に用いる言語は外国語でも構いませんが 公正証書は日本語で作成されますので、たとえ公証人が外国語を理解できる場合であっても外国語による口授の場合には、通訳を立ち会わせる必要があります。
口がきけない者が遺言をする場合には、公証人及び証人の前で遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書することで口授に代えることができます。(c)口述内容の筆記
公証実務上、遺言者が公証役場で話す内容をその場で公証人が筆記するという方法で遺言が作成されることはほとんどなく、予め原稿で遺言内容を証書に作っておき、遺言者にその要領を言わせて確かめる方法で作成されています。(d)遺言者及び証人の署名、押印
遺言者及び証人は、筆記の正確なことを承認した後、署名押印しなければなりません。
公証実務上、遺言者については本人確認のために、印鑑証明書の提出が必要となり、実印で押印が必要です。一方、証人は実印で押印する必要はありません。
遺言者が署名することができないときは、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができます。(e)公正証書遺言のメリット
公正証書遺言は、遺言書の原本が公証人役場に20年間保存され、紛失、滅失などのおそれがありません。また、専門家が関与するため、遺言者の意思を正確に実現することができ、また方式の違反によって遺言が無効とされる可能性も極めて低いといえます。
手続的には、一見面倒そうに見えますが、実務的には簡単なものとなっていますので、遺言は原則として公正証書遺言によるべきです。 -
(ハ)秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言者がその証書に署名押印すること、遺言者がその証書を封じ、証書に用いた印章でこれに封印すること、遺言者が公証人1人及び証人2人以上の面前で封書を提出して、それが自己の遺言書である旨並びに氏名及び住所を申述すること、公証人がその証書の提出された日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともに署名押印することにより作成します。(a)遺言者の署名押印
遺言者が遺言証書に署名、押印することが必要とされているのは、遺言者が誰であるかを明らかにするためです。
署名は遺言者自らなすことを要し、他人に行わせても無効です。
押印については、実印である必要はなく、認印であっても差し支えありません。
秘密証書遺言については、遺言者の署名押印以外に遺言書の作成手続についてなんら規定がないため、自書されたものである必要はなく、他人の書いたものやワープロ、タイプライター等の機械を用いて作成した遺言書であっても差し支えありません。(b)遺言書の封入・封印
遺言書の封入は遺言者自らがなすべきですが、遺言者がその面前で他人に命じて封入することも差し支えないと解されています。
封印には証書に用いた印章を使用しなければならず、異なる印章の場合は秘密証書遺言として無効となってしまいます。(c)封書の提出・申述
遺言者は、公証人1人及び証人2人以上の面前に封書を提出して、それが自己の遺言書である旨並びに氏名及び住所を申述しなければなりません。
公証人及び証人は、遺言の内容を確認することまでは要求されていないため、公証人は、署名が遺言者自身によるものか否か等、要式の不備をチェックすることもできませんし、受遺者が証人となっている場合のように、証人の欠格事由をチェックすることも困難であるという問題が生じます。(d)公証人の記載と公証人・遺言者・証人の署名・押印
遺言者の署名は必ず自身でしなければなりません。
公正証書遺言の場合のように、公証人がその事由を付記して署名に代えることは許されません。(e)証人の資格
秘密証書遺言においては、証人2人以上を要します。
公正証書遺言と同様に資格制限が設けられており、未成年者、推定相続人、受遺者及びその配偶者並びに直系血族、公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び雇人は、証人となれません。(f)秘密証書遺言のメリット・デメリット
秘密証書遺言は、遺言書の存在を明らかにしながら、内容を秘密にしておけるというメリットがあります。
一方、手続が面倒である割には遺言の効力が争いになるおそれがあり、また、遺言書が公証人役場に保存されるものではないため、紛失、滅失等の危険があるというデメリットがあります。 -
(ニ)危急時の遺言
危急時遺言は、遺言者に死亡の危険が迫って自ら遺言書を自署したり署名押印ができない場合に許される例外的な遺言です。
一般危急時遺言 (一般臨終遺言、死亡危急者遺言) と難船危急時遺言 (難船臨終遺言、船舶遭難者遺言) の2種類があります。(a)一般危急時遺言
疫病その他の事由によって、死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会があること、その1人に遺言の趣旨を口授すること、口授を受けた者がこれを筆記し、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させること、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、署名、押印すること、遺言の日から20日以内に証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所にその確認の請求をすること、確認の請求を受けた家庭裁判所が遺言者の真意で遺言をしたとの心証を得て確認すること、という要件のもと遺言の作成が認められます 。(b)難船危急時遺言
難船危急時遺言は、船舶遭難の際、在船者で死亡の危急に迫っている者に許されるもので、危急時遺言より一層簡略な方式が認められています。
証人2人以上の立会を得て、遺言者が口頭で遺言をし、証人が遺言の趣旨を筆記し、これに署名・押印することでなされ、筆記が遺言者の面前ないしその場でなされることも、筆記を遺言者及び証人に読み聞かせることも必要ではありません。
また、家庭裁判所による確認は、証人の1人又は利害関係人から遅滞なく請求すれば足ります。 -
(ホ)隔絶地遺言
隔絶地遺言とは、危急時遺言のように死亡の危急が迫っているとの事情はないが、一般社会との交通を遮断された者がなす遺言です。
伝染病のために隔離された地域にある場合に行われる伝染病隔離者遺言と船舶という隔離された場所にある場合に行われる在船者遺言と2種類があります。
伝染病隔離者遺言に関する民法977条は 「伝染病のため」 とありますが、伝染病に限らず、一般社会との交通が事実上又は法律上自由になし得ない場所にある場合すべてを含むと解されています。例えば、刑務所内にある者、戦闘・暴動・災害などのような事実上の交通途絶地にある者なども含まれます。
そのため、伝染病隔離者遺言は一般隔絶地遺言とも呼ばれます。
伝染病隔離者遺言 (一般隔絶地遺言) は、警察官1人及び証人1人の立会をもってなすことができ、在船者遺言は、船長又は事務員1人及び証人2人以上の立会をもってなすことができます。